Finding light under the shade of an old tree
色鉛筆・紙
12.5x23.5cm | 5×9 1/4 in
モクセイ科モクセイ属の中に、金木犀(キンモクセイ)でも銀木犀(ギンモクセイ)でもなく、花の色が薄い橙色から乳白色に近い大変珍しい『薄黄木犀(ウスギモクセイ)』という品種が存在します。
明治31年に新築(32年創業)された大分県別府市鉄輪の冨士屋旅館。
平成8年に暖簾は下ろされ旅館としての歴史に幕は閉じられたそうですが、別府市に唯一現存する明治時代の旅館建築として平成13年に国の登録有形文化財に指定されました。
百余年を経て老朽化の為に取り壊しも検討されたなか、再生建築が施され『冨士屋 Gallery 一也百(はなやもも)』として甦り現在に至ります。
色鉛筆にて描いた本作のモチーフは、『冨士屋Gallery 一也百』現当主の曾祖父が明治時 代に旅館を始めた際に敷地内に移植された、幹回り1.8メートル、高さ10メートルにも 及ぶ樹齢200年を越えるウスギモクセイです。
現在は大分県の特別保護樹木に指定されていまして、毎年9月下旬から10月に掛けて黄橙色の小花が咲き誇り、その甘くかぐわしい芳香が今なお見る者を魅了し秋の訪れを感じさせてくれます。
『冨士屋Gallery 一也百』にて満開のウスギモクセイを初めて目にしたのは2015年9月某日でした。
そのウスギモクセイは長い年月が経ち幹の一部が朽ち空洞化していながら、植物が生命の危機を感じた際に切片が新しい個体として生きて行く為に自ら再生し根を作る性生殖の一種とされる『不定根(ふていこん)』を形成し新たな支えを成し甦ってました。
明治時代の『冨士屋旅館』から現在の『冨士屋Gallery 一也百』までの歴史を100年以 上に渡り見守り続けてきた、その生命力溢れるウスギモクセイと出会った事から制作意欲 を誘われ描かせて頂くに至った1枚です。
『百余年経た建物をもう百年伝える再スタート』という気持ちが込められ名付けられたという『一也百(はなやもも)』、2015年に出会い描いたこのウスギモクセイの絵も 『冨士屋Gallery 一也百』の歴史と共に、これから百年先までも残り伝わり行くようになれば作者としてこれ以上幸せな事はありません。
敬愛する日本画家、堀文子先生がおっしゃっていました。「私は自分を芸術家とは思っていません。世の中の不思議さ、美しさ、感動したものを記録する職人です。」・・・自分もそうありたいです。
この"生命の奇跡"と出会えた事に感謝を込めて。